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エンゼルケアアーカイブ
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革皮様化の理解

 

長沙民政職業技術学院 遺体管理学教授  伊藤 茂 氏

 

発生と経過

 

革皮様化を理解するためには不謹慎ですが、食品を想像してもらうと分かりやすいために、食品を介して説明し理解してもらいます。
革皮様化は「乾燥」によって生じる現象であり、患者さん等の生体では末梢組織にも体液や血液の供給がある事から発生する事は基本的にはありません。
しかし、ご遺体では心臓停止があるために末梢組織に対する体液や血液の供給や、創部からの形成痂皮や肉芽形成等も無い事から、創部の乾燥が亢進して表皮が剥奪した部分では革皮様化が発生します。
食品においてこの条件を満たす物が日本には古くから存在しており、人工的に革皮様化を起こさせて「保存やうま味を増しています」。
この商品は「スルメ」であり、スルメは活イカを人工的に革皮様化させた状態であり、ご遺体の皮膚に見られる革皮様化も理論的にはスルメと同じです。
スルメは「スルメイカの表皮を剥いで乾燥させた物」(表皮がそのままの物もある)であり、海から上げられて氷で冷やされたスルメイカは海中で生存していた時期と大きく異ならない水分含有量を呈しています。
しかし、2つに割かれて表皮を剥がされたスルメイカは乾燥に向けて進みだし、これに加えて人工的に天日や熱風、送風が加えられる事により水分は蒸散し、表面の褐色化と硬化が進行します。
そして、この水分が減少して褐色化と硬化が見られる状態が革皮様化であり、ご遺体特有の現象と言えます。
革皮様化で重要な事は、スルメイカの皮を剥いだだけでは革皮様化は生じない点であり、鮮魚コーナーで販売されている「イカの刺身」はラップ等の乾燥防止策が講じられているために、変色や硬化は見られません。
そのために、充分な乾燥防止策を講じていれば革皮様化現象の発生を最小限に留める事が可能です。
イカを煮た場合でもイカの硬化は発生しますが、褐色化は起こりません。
そして、これらの変化は遅延性で発生するために、HP内で看護師が目にする事が非常に稀であり、存在すら知らされていないのが現状でしょう。
しかし、スルメを水に漬けても元のスルメイカの様にはならない様に、ご遺体の変化は「不可逆的変化」であり、悪化させれば元に戻す事は困難といえます。
そのために、ご遺体を悪化させない事が最も重要なポイントです。

 

 

乾燥させない

 

革皮様化は看護師の行う「髭剃り行為」が最大の原因ですが、これら以外でも外傷を有するご遺体には見られますが、前者は看護師の未熟な技術が原因であり、後者は不可抗力な物と言えます。
そのために、ご遺体に見られる革皮様化の原因の80%以上は看護師のミスが原因であり、これが改善されれば国内のご遺体に見られる革皮様化現象は激減すると断言が出来ます。
しかし、看護師による髭剃りミスは看護師自体が「気がつかない」のが現状であり、看護師の髭剃り後3時間以上が経過して発生して来るために、髭剃りにより表皮剥奪を起こしている事自体にも気がつきません。
それ故に、髭剃りで表皮剥奪を生じていると仮定して「乾燥防止対策」を講じていれば、革皮様化の発生は抑制されて最小限の悪化で留まる事となります。
乾燥を防止する方法としては「皮膜法と被覆法」の2点が挙げられます。
皮膜に関した実験では、バターやマーガリン、マヨネーズやオリーブオイル等の製品も試してみましたが、浸透圧の高い物は乾燥を誘発する部分もありご遺体には適した結果とはなりませんでした。
バターにおいてもケーキ用の無塩バターであれば可能ですが、緊急時を除いて食品系の皮膜は避けるべきです。(オリーブオイルは良好であった)
クレンジングクリームでの皮膜も可能ですが比較的皮膜厚が薄いために、更なる皮膜材が必要と思われます。
特に表皮剥奪辺縁部位はある程度の厚みのある皮膜が必要であり、クレンジングクリームだけでは「不足」と考えられます。
女性のご遺体であれば化粧での皮膜も可能ですが、髭剃り後の革皮様化は男性ご遺体に見られる特徴であり、男性ご遺体では化粧での皮膜は期待できませんので、髭剃り+保湿クリーム(乾燥防止クリーム)は必須のセット処置と言えます。
ご遺体に対しては腐敗させない事と同様に「乾燥させない事」が重要であり、エアコンの普及を含めてご遺体の乾燥誘発因子は非常に増加しています。


特にご遺体に対する処置の殆どは「ご遺体の乾燥を促進する処置」であり、何らかの原因で表皮が失われた状態であれば、革皮様化は必ず発生します。
現実問題としては生体で髭剃りミスを行うと「出血」が見られますが、ご遺体での髭剃りミスでは「出血は見られない」ために、髭剃りを行った看護師がミスに気が付く可能性は限りなくゼロに近い状態です。
葬儀業界でご遺体の処置を行う者でもご遺体の髭剃り時に表皮剥奪を起こしていますが、男性であっても髭剃り後にクリーム系の製品の塗布やファンデーションを使用することから、革皮様化への発展が遅くなる上に目立たない事からご家族等が気付く可能性は低くなります。
髭剃り行為にて表皮剥奪を生じたとしても、「目立たなくするか」がプロとアマの違いであり、プロは「パフォーマンス性を重視」することから看護師が行うエンゼルメイクには見られない部分が多く目的や意義では全く異なる物ですが、きれいに見せる事に関しては参考になる部分もあります。

 

 

ご遺体の化粧の目的

 

ご遺体に行う化粧の目的は生体に行う化粧の目的とは全く異なります。
生体に行う化粧の目的は「きれいに見せる」ためですが、ご遺体においてはこれから始まる乾燥症状の進行を防止する目的もあります。
そのために、ご遺体では乾燥の激しい露出部分である耳朶や手指にも乾燥防止のためのクリーム等の塗布は必要であり、男性ご遺体であってもご遺体の顔には何らかのメイクは必要です。
カバーメイクは傷や痣を隠すだけではなく、健常な肌に対しても乾燥を防ぐ目的で使用します。
この場合は色の濃い薄いは重要ではなく広範囲の温度域に対する適応性が重要となります。
死亡直後のご遺体の顔の温度は33?35℃程度ですが、死後経過時間と伴に顔の温度は低下します。
特に冷蔵庫等に納められた状態では顔の表皮温度は5℃以下となり、生態環境では考えられない状態となります。
この状態でも死亡直後との温度差は30℃以上の幅があり、中国や台湾では?18℃以下の冷凍保存が主なために温度差は50℃以上となります。

恒常性が消失し水分供給が停止したご遺体ではマクロ的にもミクロ的にも、これらの環境変化には耐えられない状態となります。
特に腐敗と乾燥は相反する部分があり、防腐性が強まると乾燥が亢進する傾向があります。
冬よりも夏はご遺体の腐敗が生じやすいのですが、乾燥に関しては夏よりも冬の方が乾燥は生じやすくなります。
そのために、冬の時期のご遺体管理には環境の湿度コントロールは重要であり、ご遺体自身の水分コントロールが消失している事から環境をコントロールします。
ご遺体の防腐対策のエンバーミングや冷蔵・冷凍は腐敗を遅延させますが乾燥の促進ともなり、これらのバランス調整も重要となっています。
ご遺体に行う清拭やホットパックはご遺体表皮の皮脂を取除きますが、生体と異なりご遺体では皮脂分泌が無い事から、「皮脂の皮膜効果、バリアー効果」は取除かれる事となり乾燥や微生物学的な事を考えると、必ずしも良い結果ばかりとはなりません。
そのために、清拭やホットパックを行う場合には「沐浴剤の使用」やオイルやローションの使用も」検討するべきと言えます。
市販品では新生児や乳幼児に使用する製品がご遺体の特性への適合性が高く、ご遺体の肌の保護には適しています。
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