「死後のメークアップに尊体用化粧品が必要なワケ」
弊社ではエンゼルメイクを行っていただくにあたり、ご尊体(ご遺体)の皮膚特性を考慮して処方した尊体用メイク剤「ID」を完成いたしました。
生体の皮膚表面には、皮脂と汗により形成された皮脂膜が存在し、外界からの刺激や脱脂、肌荒れから皮膚を保護するとともに、エモリエント効果をもたらしています。エモリエント効果とは柔軟湿潤作用といい、皮膚の乾燥を防ぐ(保湿)とともに、皮膚に柔軟性と弾力性を与える効果をいいます。冬の乾燥した季節や加齢とともに皮脂の分泌量が低下すると、皮脂膜の形成が不十分になり、これを補うためにクリームや乳液を使用します。
ご尊体は皮脂や汗の分泌がなく乾燥が著しくすすむため、時間経過とともに皮脂膜の形成が損なわれ、皮膚の保護作用がなくなります。そこで、IDのクリームやクリームファンデーションには皮脂膜を補うために、生体用よりも多く油性原料を添加しています。そのため、皮膚へののび(展延性)やつき(付着性)がよく、酸化チタンのような被膜力の高い成分を比較的多く添加することで、薄づきで化粧くずれを起こしにくい特徴があります。
油性成分についても、生体用では皮膚の生理作用である発汗や皮膚呼吸を妨げず、適度なエモリエント効果を与えると同時に、べとつかずさっぱりとした使用感が求められます。逆に尊体用では水分の蒸発を防ぐこと(乾燥防止)が求められるため、ワセリンや無水ラノリン、流動パラフィンのような水分蒸発効果の低い油性原料を多く使用しています。
また、IDは化粧くずれを防ぐために、仕上げにパウダーファンデーションを使用していただきます。
生体における化粧くずれは、皮脂の分泌量の多い額や鼻のまわりなどのいわゆるTゾーンで起きやすいものです。生体において化粧くずれを防ぐには、皮脂の分泌を抑える収れん化粧水で毛穴を引き締め、Tゾーンにはなるべく薄くファンデを塗り、皮脂の吸着のためにパウダーで仕上げるといったことが対策としてあげられます。
同様に、尊体においても油分のコントロールが化粧くずれを防ぐカギといえます。尊体は皮脂や汗の分泌がないため、時間経過とともに皮脂膜の形成が損なわれるとメイク剤が肌になじまなくなります。余分なメイクが肌に残ると油分が分離し、化粧くずれの原因となります。余分な油分を肌に残さないことが化粧くずれを起こさないために最も重要です。
クリームファンデーションを薄く塗り、その上にパウダーファンデーションを使用することで、油性成分を吸収します。その後パフを使ってなじませ、余分な油分を取り除くと化粧くずれを起こさず、長期間の保持が可能になるのです。
生体用と尊体用の化粧品とでは、化粧をする目的やそれぞれの皮膚特性が全く異なります。 生体の皮膚にあわせた処方による生体用化粧品は尊体のメイクには不向きで、化粧くずれを起こさず、長時間美しい状態を保つことを期待するのは非常に困難です。
生体用の化粧品と尊体用メイク剤「ID」の違い
《化粧をする目的》
生体用・・・美しく見せるため お洒落のため
尊体用・・・死体を生体に見せるため
《皮膚特性》
生体用・・・皮脂が分泌し、皮脂膜が形成されている
季節や温度、年齢、性別によって皮脂量が異なる
体内から水分が補給され、いつも瑞々しい状態を保持できる
尊体用・・・皮脂の分泌がなく、皮脂膜が損なわれる
体内からの水分補給がなく、著しく乾燥がすすむ
顔面が蒼白化 死因によっては顔色が急激に変化
《使用する油性成分》
生体用・・・発汗や皮膚呼吸を妨げないもの
べたつかず、さっぱりとした使用感の得られるもの
健康志向から、アレルギーや刺激の少ないものや植物性原料
具体的にはシリコーンオイル各種、スクワランオイル、オリーブ油など
尊体用・・・乾燥防止効果の高いもの
皮脂膜を補うために添加量を増やす
カバー力があり、硬く冷たい皮膚でもノビがよい
具体的にはワセリン、ラノリン、流動パラフィンなど